忘れられた精霊の森を訪ねて
    (生きてることが好きだから)




に戻る   

          小山次郎






登場人物表

主人公マモル(16歳)
父(43歳)
母(42歳)
叔父(母方)
叔母(母方)
星刈(養護教諭)
謎の女子高生(星刈の妹)
美千代(田舎の親戚嫁)
恵(美千代の娘九歳)
舞(美千代の娘七歳)




    ---------------------------------



あらすじ


 交通事故で両親と弟を失ったマモルは叔父家族と暮らしはじめるのだが、家族のすべてを失ったというショックの大きさと、その悲しみの深さからなかなか抜け出すことができないでいる。
 そのため勉強にもクラブ活動にも興味を失い、学校にも気がむいたときにしか行かなくなり、次第に生きる気力までも失いかけていく。
 それでも周囲からの暖かい励ましの言葉に応えるためにも普段人前では平静さを装っている。だが陰ではメソメソと泣いてばかりいる。
 そんなある日マモルは知らぬ間に自分のポケットに入れられているメモ用紙を発見する。  マモルはそこに書かれている挑発的な内容に興味が引かれ、それを書いた女子高生を見つけ出そうとする。  だが思うように見つけることができないだけでなく、メモ内容はどんどん過激になり、マモルに今までの自分とは違う少し高校生にはふさわしくないような行動を求めるようになる。
 しかしマモルがそのような行動を本心から取ることもできないだけでなく、深い悲しみを抱えたまま相変わらす無気力な生活を送り続ける。
 そしてマモルはそんなどっちつかずの自分に気づきながら、人生の目的について、生きる意味について、ひそかに思い悩むようになる。
 女子高生の挑発的な言葉に魅力を感じながらも。

 夏休みのある日マモルは昔祖父に宛てられた祖父の母からの手紙を発見する。
 そして自分には田舎に遠い親戚があることがわかる。
 マモルはその親戚を訪ねる。
 そこでマモルはそれまで経験したことがないような、親戚の人たちの純朴で奇妙で開けっぴろげな行動を眼にする。
 それらはマモルの眼には驚きとともに新鮮なものに映った。  そしてマモルは、親戚の人たちはみんな自分の抱えている深い悲しみを気遣っているかのように、決してそのことを言葉には出さないが、心の奥から自分のことを心配していることに気づかされる。

 夏休みが終わるとマモルの変化は誰にも判るようになっていた。
 勉強にも身が入るようになりクラブ活動にも参加するようになった。
 そしてついに自分を挑発し続けた女子高生にめぐり合う。




    -------------------------------


○大雨の道路(夜)
   多重衝突事故の発生。
   乗用車に乗っていたマモルの父母と弟死亡。


○葬儀会場
   喪主はマモル。


○マモルの家
   マモルとマモルの叔父叔母(母方)が話している。
叔父「良いことずくめで、何にも悪いことないと思うよ」
叔母「私もそう思うわ」
叔父「義兄さんたちの保険金はあるといっても、それほど
 多くはないからね。家のローンはあと二十年だろう。
 それを払って、高校、大学、さらにもっと上に行けば、
 たぶん足りなくなるとと思うんだよ。それで、私たちが、
 残りのローンを払うことにして、保険金全額はマモル君の
 これからの生活費や教育費に当てることにすれ ば、
 すべてが丸く収まって、申し分ないと思うんだよね。」
叔母「私たちだってそろそろ家を買おうと思っていたの。
 ちょうど良かったわ。一人で住むのって大変よ。まだ
 料理は出来ないでしょう。掃除だって、洗濯だってあるし。
 それじゃ勉強に専念できないじゃない。それより
 寂しいじゃない。」
叔父「学生の本分は勉強だからね。とくにマモル君の場合は、
 一生懸命勉強して、いい大学に入ることが、死んだ義兄さん
 たちへの最大の供養にもなるからね。義兄さんたちは
 苦労して、頑張ってこの家を建てたんだ。
 なんとか守らないとね」
マモル「みんなでいっしょに住むってことだよね」
叔母「そうよ、きっと楽しくなるわよ。新しく妹や弟が
 出来るようなものだから」
叔父「とにかく良いことずくめさ。マモル君は勉強に
 専念できるし、義兄さんの家は守れるし、そのうえ
 私たちは念願の家がもてるんだから」


○都会の風景(夕方)・定点


○都会の風景(夜明け)・定点


○都会の朝の通勤通学風景・定点


○駅(朝)
   ホームに入った電車から吐き出されるようして出てくる
   マモル。


○駅の階段(朝)
   階段を上がっているときなぜか急に感極まり歩けなくな
   るマモル。
   人目につかないところで隠れるようにして涙する
   マモル。


○駅の構内(朝)
   通勤通学客で混雑している。


○駅の外(朝)
   整然と足早に通り過ぎる人の群れ。


○マモルの通う高校の全景(朝)


○都会の公園
   走る電車の見える公園。
   季節は新緑の五月。
   片手を顔に当て泣いているマモル。


○徐行している電車の窓。
   手前に乗客である女子高生の脚部、窓の外には遠く
   公園のベンチに座って泣いているマモルの姿。


○都会の風景(夕方)・定点


○都会の風景(夜明け)・定点


○都会の朝の通勤通学風景・定点


○マモルの通う高校の全景(朝)


○学校の保健室
   久しぶりに学校にいったマモルは保健室に呼び
   出される。
   女養護教諭星刈はマモルを見て鏡と櫛を渡す。
星刈「これで少しは気分変わるわよ」
   鏡を見ながら髪を梳かすマモル。
   梳かし終わってか髪と櫛を渡すマモル。
星刈「どう、久しぶりの学校は?」
マモル「・・・・・」
星刈「授業は?」
マモル「すぐ、ぼぉっといして、」
星刈「身が入らないのね。仕方がないことよ、もう少し
 時間をかけないとね。いずれにせよ、学校を続けられ
 るようになったということはとても良いことよ。
 叔父さんたちと住んでいるのよね」
マモル「はい」
   マモルの表情はいっこうに晴れない。
星刈「今何か不自由をしていることはない?」
マモル「これといってはないです、でも、まだ、
 何をしてても、すぐ思い出すんです。両親や妹のことを。
 するとどうしようもなく泣きたくなるんです。
 人が見てないと思うと本当に泣いてしまいます」
星刈「良いのよ、今は泣きたいと思ったらはどんどん泣い
 ていいのよ。そのうちに一歩を踏み出さなければならな
 いときが必ず来るはずだから、そのときまでは、、、、」
   星刈マモルからはなれて机の上の書類を手にする。
   それを守るに渡しながら話す。
星刈「この方が教育委員会から推薦を受けているカウン
 セラーなの、何かあったら是非この方に相談してみて、
 ねえ、もう少しだけ元気を出そう」
マモル「・・・・・」
星刈「友達と話をした?」
マモル「・・・・・」
   笑みを浮かべる星刈。
星刈「それじゃ、とにかく今は勉強のことだけを考えよう、
 それならできるでしょう」
   星刈は右手でマモルの服のチリをとった後、
   左手を軽くマモルに添えて見送る。


○帰りの電車内
   マモルは座席に座り星刈から渡された書類を見ている。
   電車が止まり混雑してきたのでマモルはその書類を
   すばやくたたんでポケットにしまいこみ席を立つ。


○マモル自室A
   ハンガーに掛かっている上着のポケットから
   先ほどの書類を取り出し開いてみる。
   するとそのとき二つ折りにされた一枚の小さなメモ用紙
   が出てきて床に落ちる。
   マモルはそれを拾い上げて見る。


○メモ用紙の内容
   それには次のように書いてある。
   「昨日は公園でメソメソ泣いていたでしょう。
   その前はホームのはずれで。私はなぜ泣いているのか知
   っているよ。それにあなたの名前もね、マモルって
   いうんだよね。でも私は他の人のように優しくはしない。
   だから慰めの言葉も励ましの言葉もかけない。
   今のあなたには、そんなものは何の役にも立たない
   ことが判っているから。
      アイドル似の女子高生 堕天使スターキル」


○マモル自室B
マモル「なんだこれは?」
   メモを見ながら激しく戸惑い不思議そうな表情をする
   マモル。


○マモルの自室のベットの上
   紙切れを手に持ったままベットに仰向けになり考え
   ごとをするように空を見ている。
   そのときドアのほうから叔父の声がする。
叔父「マモル君家族会議をするから居間に集まって」
マモル「はい」


○マモルの家の居間
   マモル叔父夫婦とその子供たちが居間に集まって
   家族会議をしている。
叔父の子供姉「めんどうくさいよルールなんて」
叔父の子供弟「家族なんだからさ」
叔父「家族でも最低限のルールは必要なの。お母さんと
 相談して決めたんだけど、まずは、朝の洗顔トイレは
 速やかに済ますこと。学校に行くときは、
 『いって来ます』、帰ってきたときは、『ただいま』
 ということ。食事が終わったら自分の食器だけは
 流しに持っていくように。門限は七時。あと、それから、
 洗濯物はためないこと、自分の名札が張ってある籠に
 入れておくこと。以上だな。何か他に付け加える
 ことがあったら、ない、 ないね、では皆さん、
 今日からは決められたルールはちゃんと守りましょう」


○都会の風景(夕方)・定点


○都会の風景(夜明け)・定点


○都会の朝の通勤通学風景・定点


○朝の通学電車内
   マモルは電車内の可愛い女子高生ばかりを
   物色するかのように次から次へと見ている。
   そのため他の乗降客と軽く衝突をしたりする。


○午後の帰りの電車内
   マモルに見られているある女子高生が
   舌打ちをしながらマモルのほうによってくる。
ある女子高生「なに見てんだよ、なんか文句あんの?
 キモいんだよ!」
マモル「いいえ、なんにも」


○都会の風景(夕方)・定点


○都会の風景(夜明け)・定点


○都会の朝の通勤通学風景・定点


○朝の通学電車内
   今日もマモルは電車内の可愛い女子高生ばかりを
   物色するかのように次から次へと見ている。
   そのため他の乗降客と軽く衝突をしたりする。


○繁華街
   学校には行かず繁華街の漫画喫茶に入っていくマモル。


○漫画喫茶店内
   漫画を読みながらマモルはポケットからハンカチを
   取り出すが、そのとき覚えのない紙切れがテーブル
   の上に落ちたことに気づく。
   この前と同じような二つ折りにされてメモ用紙。
   それを拾い上げてみるマモル。


○紙切れの内容
   それには次のように書いてある。
   「私の正体をつかもうとしているでしょう。
   うふっ、思う壺ね。まんまと引っかかったって感じ。
   でも、スキだらけよ。昨日マモルが不良少女に
   怒られていたけど、なんとなく愉快だった。
       アイドル似の女子高生 堕天使スターキル」


○都会の風景(夕方)・定点


○都会の風景(夜明け)・定点


○都会の朝の通勤通学風景・定点


○朝の通学電車内
   少し身動きが取れないほど混雑している。
   電車が止まるたびに他の乗降客とたびたび接触する。
   それでもマモルは相も変らず電車内の可愛い
   女子高生ばかりを物色するかのように次から次へと
   見ている。


○駅のホーム
   他の客と激しく接触しながら降りたマモルははっと
   思いついたようにポケットに手を入れる。
   すると例のメモ用紙が取り出される。


○メモ用紙の内容
   それには次のように書いてある。
   「まだ私の正体をつかもうとしているでしょう。
   でもそんなやり方じゃ、永久に無理ね。男の子って、
   本当にバカね。おホホ、もう少し冷静になって
   考えれば判るかも。
        アイドル似の女子高生 堕天使スターキル」


○帰りの電車内
   空いている車内の隅でマモルに手紙を
   渡す女子高生の群れ。
女子高生A「頑張ってください、私たちずっと
 応援してますから」
   無言だがやや笑みを浮かべて手紙を受け取るマモル。
   手前には脚部だけの他の女子高生が映っている。
   他の乗降客に気づかないくらい嬉しそうな
   表情のマモル。


○住宅街
   歩いているマモル。
   何気なく先ほどの手紙を取り出そうとすると、
   いっしょに出てきた紙切れに気づく。


○メモ用紙の内容
   それには次のように書いてある。
   「なに、デレデレして! 勘違いしてるんじゃないの!
   そんな場合じゃないでしょう。成績もどんどん下がり
   放しで、まさに奈落の底ね、それはそれでお似合い
   かもね、ふん。でも私は決して甘やかさないわよ。
   あとそれから、注目されるのは今だけよ。人の噂も
   七十五日、夏休みが過ぎたらマモルのことなんか
   みんな忘れているからね。
       アイドル似の女子高生 堕天使スターキル」


○都会の風景(夕方)・定点


○都会の風景(夜明け)・定点


○都会の朝の通勤通学風景・定点


○図書館ホール
   派遣カウンセラーとマモルが歩いている。
カウンセラー「どう、学校には行っている?」
マモル「ときどき、気がむいたときだけ、今日はその帰りです。
 すみません、わざわざ、でも、学校では会いたくなかった
 ので、、、、」
カウンセラー「私はかまわないよ、君が好きなところで、
 こういうことはわね、気兼ねしないということ、
 少しわがままなくらいがいいんだよ」


○図書館の中庭
   所々にベンチがあり、人も座っている。
   派遣カウンセラーとマモルがベンチに座っている。
   背後のベンチにも人が座っている。
マモル「今日も書道部の後輩から、寄せ書きをもらいました。
 あれ以来ずっと休んでいたから、みんな優しいです、
 ぼくが復帰するのを待っているんです。でも、
 まだそんな気にはなれなくて。それにみんなは頑張って、
 頑張ってって言うんですけど、僕にはどう頑張れば
 いいんだかわからなくて、、、、」
カウンセラー「友達とは会って話なんかしている?」
マモル「もともと親しく話し合えるような友達はいな
 かったので、書道クラブでは誰とでも話してました、
 楽しかったです。でも今は、そんな人でも会って
 話をするのが、なんとなく気が重くて、できれば
 避けたいです」
カウンセラー「うん、そうだね。もう少し時間をかけた
 ほうが、まだ無理をしないほうが良いかな、なんとなく
 苦痛だなと感じることも、まだやらないようにしておいた
 ほうが良いかな。もとの性格はそんなんじゃないみ
 たいだから。勉強のほうは身が入っている?」
マモル「、、、、、」
カウンセラー「、、、、、」
マモル「はっきりいいますと、僕には、生きる意味が判ら
 ないのです。何のために生きるのか?」
カウンセラー「誰しもがその疑問に突き当たると思うけど、
 とくに若い人はね。私も悩んだけど、結局、私が
 社会のために、人のために何ができるのかが、
 私にとっての生きる意味になったんだよね。
 だから、今こうしてこんな仕事についているんだけどね」
   表情が曇ったまま虚空を見つめるマモル。



○都会の風景(夕方)・定点


○都会の風景(夜明け)・定点


○都会の朝の通勤通学風景・定点


○ネットカフェ 
   例のメモ用紙を見ているマモル。


○メモ用紙の内容
   それには次のように書いてある。
   「なに!、生きる意味が判らないですって!
   百年早いわよ。今まではせいぜいトップクラスを維持
   して、書道クラブの後輩たちからは頼りがいのある
   先輩とおもわれていることぐらいが生きる意味だった
   くせに、それがなんの意味を成さなくなったからと
   いって、大げさに生きる意味から判らないなんていって
   欲しくないわね。私にだって、生きる意味なんて、
   そんな大それたこと、まだ判らないわよ。
   そんなこと考えている高校生なんて、
   この世に一人もいないわよ。考えるだけムダ、
   止めなさい。そんなもん簡単に見つかるわけない
   じゃない。すぐに見つかるような気がして誰でも
   安易に考える。でもすぐには見つからないので、
   それで安易に絶望する。そして死にたくなる、
   自殺なんて最低よ、自殺するより悪く生きるほう
   がはるかにマシだからね。ねえ、私たちの仲間に
   入って悪くならない、面白いわよ。
       アイドル似の女子高生 堕天使スターキル」


○都会の風景(夕方)・定点


○都会の風景(夜明け)・定点


○都会の朝の通勤通学風景・定点


○学校の保健室
   マモルと星刈の二人。
マモル「まだ授業のほうには身が入らないんですが、でも、
 人間の心って言うか、心理学のほうを勉強したく
 なりました。何か良い本がありましたら紹介してください」
星刈「そうね、まず初心者には、心理学原論という本はどう
 かしら。心理学に関して大筋のことを書いてある本よ。
 私も借りて読んだことある、ちょっと専門的だから、
 学校の図書館にはないと思うは、市の図書館にはあると
 思うけど。とにかく、やりたいことが出て来たってことは、
 とても良いことね。がんばって」
   二人ともほっとしたような笑顔で見詰め合う。


○マモルの家の自室
   ベットに腰掛けて借りてきた心理学原論を何気なく
   開いて見ていると、とあるページにいつもの紙切れが
   挟まっているのを見つける。
   マモル驚いてそれを手に取り見る。


○メモ用紙の内容
   それには次のように書いてある。
   「驚いたでしょう。初めにいったでしょう。
   私にはマモルのことが何でも判るって。
   どう決心がついた。私たちは、
   とにかく自分のやりたいことをやる者たちの集まり
   なのよ。これをやれば大人が喜ぶとか、社会が喜ぶと
   考えないのよ。まず、自分のやりたいこと好きなこと
   だけをややるのよ。たとえそれが高校生にふさわしく
   ないことでも、大人が眉をひそめる悪いことでもね。
   私たちの仲間に入る決心がついたら、靴紐を銀色に
   するのよそれが合図だから。それから授業をサボって
   ネットカフェや漫画喫茶に入り浸るなんてのは、もう
   私たちのメンバーになっているも同然ね。
       アイドル似の女子高生 堕天使スターキル」


○都会の風景(夕方)・定点


○都会の風景(夜明け)・定点


○都会の朝の通勤通学風景・定点


○マモルの家の玄関先
   夏休みになったのでカジュアルな服装で
   出かけるマモル。


○繁華街の遊技場のエレベーター内
   少し混んでいる。
   他の客と触れ合うようにしてドアから出てくるマモル。


○遊技場内
   例のメモ用紙を見ているマモル。
    ○メモ用紙の内容
   それには次のように書いてある。
   「久しぶり、どう、おどろいた。私って神出鬼没
   でしょ。マモルのこと知ろうと思えば、
   すぐに何でも知ることができるのよ。ところで、
   最近のマモル、どうみたって好きなことをやって
   いるって顔じゃないわ   ね。良いことも悪いこと
   もできない、どっちつかずが最悪なのよ。どう、
   言ったとおりでしょう。そのうちにみんなマモル
   の事なんて忘れるって。きっと夏休みが勝負ね。
   それでも何にも変ってなかったなら、そのまま一生
   芋虫のようにキモくすごせばいいのよ。
   いや芋虫以下ね、だって芋虫は見事に変身して蝶と
   なって羽ばたくからね。
      アイドル顔の女子高生 堕天使スターキル」


○都会の風景(夕方)・定点


○都会の風景(夜明け)・定点


○都会の朝の通勤通学風景・定点


○市立図書館内
   心理学原論を返却するマモル。


○公園
   ベンチに座り空を見ているマモル。
   ×  ×  ×
   公園を楽しそうに散策しているマモルが小さい頃の家族。
   桜の花びらを手で掬い取りそれを放り投げている弟とマモル。
   声を掛けられ両親に走る寄る弟とマモル。
   ×  ×  ×
   マモルは両手で顔を蔽ってはいるが泣いてはいない。


○マモルの家の床の間A
   紙包み解いて古い手紙を手に取り読み出す。
   それはマモルの祖父宛への手紙。


○手紙の内容
   「・・・・・・武志の行方がわからなくなってからは
   夜も眠れなくなるほど心配していました。
   でも高志アンちゃんがあっちこっちに連絡を取って
   武志の住所を調べてくれました。どうお元気でしたか?
   こちらはみんな元気に過ごしていますよ。先月三人目の
   孫の佳織が生まれ・・・・・・そのうちに帰ってくる
   ようにね。なんにも遠慮することないのよ。武志が生
   まれ育ったところなんだからね・・・・・・とにかく
   どんな仕事でも良いのですよ。元気でいてくれさえ
   すればそれでいいのですからね。・・・・・もし
   そちらでうまく行かなかったら、こっちに仕事を見つ
   けて住むようにしたらと思っています。それでは体
   に気をつけて、さようなら。」


○マモルの家の床の間B
   読み終わりつぶやくマモル。
マモル「おじいさんの母親からの手紙なんだ」
   封筒の表を見て消印を確認するマモル。 マモル「昭和、三十二年?!」
   封筒の裏を見て送り先の住所確認するマモル。
マモル「田舎に親戚があったなんて全然知らなかった」


○新幹線に乗っているマモル


○田舎道を走るバス


○バスから降りるマモル


○リュックを背負い封筒を片手に田舎道を歩き出すマモル


○農作業をしている人に尋ねるマモル


○雑木林
   雑木林を歩いていると突然道を塞ぐように立っている
   老人に出くわす。老人はマモルの方に眼をやったまま
   笑いながら常人とは思えないように声を上げる。
   その声にマモルはひるむがなんとかその老人の脇を通り
   抜ける。



○田舎の親戚の家
   玄関前に立ち声を掛けるマモル。
   二度目に返事がして嫁の美千代が出てくる。
マモル「こんにちは、初めまして、マモル、
 斉藤守といいます。斉藤武志の孫です」
   すべてを納得したような表情をする美千代。
美千代「ああ、よく来たね。さあ、入りなさい」


○田舎の親戚の家の居間A
   マモルは風通しの良い外の景色が良く見える居間に
   通される。
   テーブルを前にして座るマモル。
   美千代が飲み物やお菓子や冷えたスイカや
   玉蜀黍をもってくる。
美千代「暑かったでしょう。よく来たね。ときどき
 話していたのよ、どうしているんだろうかって。
 まずスイカ から食べたほうがいいよ、冷えているから」
   しばらくしてこの家の祖母が現れる。
   マモルが「こんにちは」と会釈をする。
   祖母がマモルをじっと見る。
祖母「よく来たね、よく来た、よく来た、良いかい、
 どんどん食べるんだよ」
   祖母が部屋を出て行く。
   居間には美千代と祖母がなにやら話をする声や
   家事の音が聞こえてくるだけ。
   マモルはぼんやりと外の景色を見ている。
   突然眼の前を洋服を手に持った素っ裸の二人の小さな
   女の子が通り過ぎる。
   非常に驚くマモル。
   やがて玄関のほうから話し声が聞こえてくる。
美千代「そんな格好で帰ってきたの! お兄ちゃんに見られたよ」
恵「お兄ちゃんって、だれ?」
美千代「東京から来たマモル兄ちゃん」
   恥ずかしそうにはしゃぐ恵と舞の声が聞こえてくる。


    ○田舎の親戚の家の居間B
   服を着た恵と舞がドアの陰からマモルを代わる
   代わる覗き見ている。
   美千代が追加分の食べ物を持って入ってくる。
美千代「暑いからって、近くの川ですっぽんポンになって泳いで、
 そのまま帰ってきたのよ」
   美千代出て行く。
   やがて美千代の娘恵みと舞が、照れ笑いを浮かべ
   意味の判らないことを言いながら、
   部屋に入ってきて座るとスイカを取って食べ始める。
   ときおり盗み見るようにチラッチラッとで
   マモルの方を見ながら。
   マモルはできるだけ眼を合わせないように
   外の景色を見るようにした。
   その後なんとなく居心地の悪さを
   感じたマモルは席を立った。


○田舎の親戚の家の付近A
   家の周りの田畑の風景が良く見える場所に
   立っているマモル。
   そのうち腰を下ろしてリラックスした表情で風景に
   見入っている。
   突然両眼を手でふさがれる。
恵「だぁれだ?」
  マモルは驚いて後ろを振り返る。


○田舎の親戚の家の付近B
   恵と舞
   二人とも照れたような恥かしそうな笑顔で、
   そして声にならない笑い声を上げてマモルを見ている。


○田舎の親戚の家の付近C
   マモル最初は驚き引きつった表情をしているが
   すぐに少女たちのような笑顔になる。


○田舎の親戚の家の付近D
   マモルと恵と舞
   打ち解ける三人。


○田舎の親戚の家の付近E
   マモルと恵と舞
   手をつないで歩いている三人。


○田舎の親戚の家の付近F
   マモルと恵と舞
   楽しそうに遊びながら歩いている三人。


○田舎の親戚の家の付近A(夕)
   マモルと恵と舞と美千代
   太陽が沈みかけている。
   三人に美千代が合流する。


○田舎の親戚の家の付近B(夕)
   マモルと恵と舞と美千代と曾おじいさん
   家に帰るとき曾おじいさんと会う。
美千代「おじいさん、武志さんの孫のマモル君よ」
曾祖父「タケシ、タケシ? タケシ! 」
恵「ちがうよ、タケシじゃなくて、マモル」
曾祖父「タケシ、タケシ、タケシ」
恵「もう、いい。帰ろう」
   恵と舞が曾祖父の手を引いて歩き出す。
   やがて曾祖父は立ち止まり歩こうとしなくなる。
   そして夕日に見ながら子供のように泣き出す。
   恵と舞は手を離して曾祖父を置き去りにする。


○田舎の親戚の家の付近C(夕)
マモル「良いんですか?」
美千代「良いのよ、よくあることだから」
   曾祖父と四人の距離がどんどん離れていく。


○田舎の親戚の家の付近D(夕)
   それでも泣いている曾祖父。


○田舎の親戚の家の玄関(夜)
   帰ろうとする叔父に美千代が話し掛ける。
美千代「もう帰るんですか?」
叔父「うん、刺身の差し入れ持ってきたから」
美千代「マモル君、あなたの従兄弟の健治叔父さん」
マモル「こんばんわ」
健治「よく、来たね、テキットイズ、テキットイズ」
マモル「はい、はあい」
   怪訝そうな顔で返事をするマモル。


○田舎の親戚の家の居間A(夜)
   テーブルには沢山の料理が並べられ、マモルの親戚
   である大人や子供が十数人ほどが集まっている。
   マモルはそれぞれから紹介を受ける。
   紹介が終わると皆それぞれ自由に飲み食べながら会話
   を楽しんでいる。
   やがて時間が経ちそれぞれがマモルに挨拶をして
   帰っていく。


○田舎の親戚の家の居間B(夜)
   守ると恵みと舞と美千代
   あと片づけを始める美千代に話しかけるマモル。
マモル「今日は何かあったんですか?」
美千代「何かって?」
マモル「こんなに人が集まって、、、、」
美千代「ああ、それ、歓迎会よ、あなたの歓迎会」
マモル「そうだったんですか!」
美千代「まあ、半分以上はみんな飲みたかったのよ。
 なんか理由を見つけてね。それからね、
 みんなマモル君にはあまり何も言わなかったでしょう。
 でも、本当はみんなとても気にかけているのよ」


○田舎の親戚の浴室の前(夜)
   浴室に入ろうとするマモル。
美千代「恵たちがいっしょに入りたいんだって、入っても良い?」
   それを聞いて驚きの表情を浮かべるマモル。
マモル「ちょっと無理です」
美千代「そうよね」


    ○田舎の親戚脱衣室(夜)
   服を脱ぎ始めるマモル。
   外からぐずる姉妹の声やそれをなだめる
   「お兄ちゃんは疲れているからゆっくり入りたいんだって」
   という美千代の声が聞こえてくる。


○田舎の親戚の家の座敷(夜)
   マモル恵舞の三人が布団を並べて寝る。
   楽しそうに話しをしてなかなか寝ようとしない三人。


○田舎の風景(夜明け)・定点


○田舎の親戚の家の居間(午前)
   夏休みの宿題をしている恵と舞。
   マモルは横で教えている。
   食器の整理をしている美千代に話しかけるマモル。 マモル「昨日玄関であった従兄弟のケンジさん、
 『テキットイズ』と僕に言ったんですが、
 方言なんですが? どういう意味ですか?」
美千代「テキットイズ? 方言? ああ、判ったわ。
 それ英語、健治叔父さんはテレビで英会話の勉強して
 いる のよ。たぶん『take it easy』日本語で
 『ごゆっくり』っていうことじゃない。
 使ってみたくてしょうがない みたい」
マモル「曾おじいさんって、ち、認知症なんですか?」
  美千代「ボケてるってこと?どうなのかしら?
 まだ調べたことがないから。あの通りでも、これといって
 問題を起こしたことがないから、誰も病院に連れて
 行って調べようとは思わない見たいよ。おじいさん、
 昔のこと あんまり言わないから、よく判らないけど、
 でも相当大変だった見たいよ。家が貧しくて、それで
 若い頃から 働いて働いて、ここまでにしたみたいよ。
 これまでに色んなことを経験しているのね。夕方に
 なるのあうなる のよ。子供みたいに泣くのよ」
マモル「やっぱり悲しいことがたくさんあって」
美千代「うん、でもはたから見ているとよく判らないのよ。
 悲しくって泣いているのか、嬉しくって泣いている のかね」
   少し間をおいて。
マモル「美千代さんは生きる意味を考えたことが
 ありますか?」
美千代「私、ないわ。ゴメンね答えられなくて」
マモル「いいえ」
美千代「でも、生きてる人っていうか、生きてるものなら、
 植物でも動物でも何でも好きよ」
マモル「それじゃ、農家の仕事って辛くはないんだ」 美千代「そう、そうなの、私にはあってるみたいよ。
 たしかに大変なときもあるけど、でも、
 苦しいとか辛いと 思ったことはまだないわ」
マモル「僕には朝から晩まで働きづくめで、
 肉体的にはきついと思いますけどね」 美千代「肉体的にはね、でも慣れれば大丈夫よ。
 それにその分変なこと考える余裕もないから、
 精神的には案外 気楽よ」
   少し間をおいて。
マモル「人のために生きるってどういうことですか?」
美千代「うーん、よく判らない。そんなことあまり
 考えたことないから。、、、、でも、それは自然にそうなる
 ような気がする、、、、なんとなく感じるんだけど、
 マモル君って、人のためって言うより、まだ自分のため
 にも生きていような気がする。もう少し自分のために
 生きていても良いような気がするんだけど、、、、、」
   ぼんやりと外を見るマモル。


○田舎の親戚の家の座敷(午後)
   マモルが恵みと舞に習字の腕前を見せている。


○田舎の親戚の家の座敷(夕方)
   雨で農作業を早く切り上げてきた家族全員が
   見守るなかでマモルが家族全員の名前が入った
   表札を書いている。
   書き終わると全員が笑顔で「うまい」「上手」
   などといいながら拍手をする。
   マモルの顔にも自然な笑みが浮かぶ。


○田舎の風景(夕方)・定点


○田舎の風景(夜明け)・定点


○田舎の親戚の家の前
   マモル恵舞の三人が近くの桜の名所である
   公園にサイクリングに出かけようとしている。
   庭でぼんやりしていた曾祖父が声を掛ける。
曾祖父「タケシ、タケシ、どこへ行くんだ?」
恵「またぁ、タケシじゃないよ、マモルだよ」
舞「無視、無視、早く行こう」
   出発する三人。
美千代「気をつけるんだよ」
恵舞「はあぃ」
   自転車で走り始めている三人。
曾祖父「タケシ、タケシ、どこへ行くんだ?」


○両側が桜並木の道路
   自転車で走っている三人。
マモル「長い道だね。この木は何?」
恵「さくら」
マモル「ずっと?」
恵「うん」
舞「来年の春きたら見れるよ」


○桜名所の公園
   公園に到着する三人。


○桜名所の公園内
   シートの上に座って弁当を食べている三人。


○田舎の風景(夕方)・定点


○田舎の風景(夜明け)・定点


○田舎の親戚の家の道路際A
   曾祖父を除いて家族全員が見送る。
   女の子二人は別れを惜しんで終始泣き顔。
親戚の嫁「いつでも良いからまた来てね」
親戚の祖母「いつでも良いからね。きっと来るんだよ」


○車のそばのマモル
マモル「はい、ありがとう、きっと来ます」


○田舎の親戚の家の道路際B
女の子「また来てね。お兄ちゃん、サヨナラ」


    ○車のそばのマモル
マモル「サヨナラ」
   マモルが車に乗ろうとすると、柿の木に上った
   曽祖父が声を掛ける。
曽祖父「マモル!」
   全員が驚いてその方を見る。
曽祖父「マモル、また来るんだぞ」


○田舎の親戚の家の道路際C
親戚の嫁「おじいちゃんが、、、、」
親戚の祖母「昔に戻った!」


○柿の木の上の曽祖父
   柿の木に上った曽祖父が声を掛ける。
曽祖父「柿を取ってやるからな」


○車のそばのマモル
マモル「うん、ありがとう、また来るよ、おじいちゃん、
 サヨナラ」


○田舎の親戚の家の道路際D
   みんなマモルに手を振っている。


○車のそばのマモル
マモル「皆さんサヨウナラ」
   最後に曽祖父に手を振り車に乗り込むマモル。


○田舎の親戚の家の道路際E
   みんな車が見えなくなるまで手を振っている。


○新幹線内
   窓から外の景色をじっと見ているマモル。


○都会の風景(夕方)・定点


○都会の風景(夜明け)・定点


○都会の朝の通勤通学風景・定点


○自宅
   勉強しているマモル。


   ○学校 
   成績発表を見ているマモル。


○移り変わる季節の情景 


○学校の保健室
   他の生徒と入れ代わり入ってくるマモル。
   マモルを見て笑顔で話し掛ける星刈。
星刈「何か良いことあったみたいね。成績が上がったの?」
マモル「えっ、まぁ、それもあるけど、今の僕のやるべき
 ことが、ようやく判ってきたというか」
星刈「そう、そうなの、それはよかったわね。表情もだいぶ
 良くなって来ているわよ。正直、もう少し時間
 が掛かると思っていたわ。」
マモル「ところで先生には妹さんいますか?」
星刈「いるわよ」
マモル「女子高生?」
星刈「そう、どうして?」
マモル「アイドル似ですか?」
星刈「さあ、どうかしら。でも、とっても変っている。
 どうして?」 マモル「うん、なんとなく訊いてみたかっただけ。
 でも、おかげで謎が解けそうです」
星刈「ナゾ? でも、良かった。もう、大丈夫ね。
 どんな良いことがあったか判らないけど」


○市立図書館内
   学校以外の勉強を始めているマモル。    トイレに席をはずして帰って来て次のページをめくると
   紙切れが挟まっている。
   顔を上げて周りを見ると本棚の影に消える女子高生の姿。
   マモルはその足元をはっきりと記憶して急いで後を
   追うが、その姿を見失う。
   席に戻ったマモルはその紙切れを見る。


○メモ用紙の内容
   それには次のように書かれてある。
   「良かったね、トップテンに返り咲いて。
   もう私は用なしね。 サヨウナラ。
      アイドル似の女子高生 堕天使スターキル」

   そのメモをやや余裕の表情でじっと見るマモル。


○移り変わる季節の情景


○市立図書館前の舗道
   ときおり枯葉が舞い舗道には落ち葉。
   図書館から小走りで出てきたマモルは、決して
   アイドル似ではない一人のメガネをかけた女子高生
   に何気なく眼をやりながらすれ違う。
   すると突然何かに気づいたように数歩歩いて立ち止まる。
   ×  ×  ×
   手紙を受け取ったと見られる前後の映像が
   次々フラッシュバックする。
   そのどの映像にも今すれ違った女子高生に似た少女が映っている。
   ×  ×  ×
   マモルが勢いよく振り返る。
   すると先ほどの女子高生が立ち止まってじっと
   マモルを見つめてる。
マモル「君だったのか! 今まで気づかないでゴメン。
 ぼくはもう大丈夫、君のおかげだね。ありがとう。
 ようやく僕にも好きなことが見つかったよ。でも、
 勉強は止めない。あっ、今日はぼくにとってとても大切な
 日なんだ、判ってくれるね。でもこれからは、
 いつでも会えるから。なぜなら、僕は君がだれか、
 もう判って いるからね。じゃあ、またね、
 電車に遅れるから」

   手を上げて別れの挨拶をしながらマモルは
   振り返り走り出す。
   ときおり振り返り手を振りながら。
   その様子を少女は笑みを浮かべてじっと見詰めている。







○終わり     - - - - - - - - - - - - - - -











  に戻る