毒蛇会議

    そうなれば私たちは、以前のように無残な殺され方をすることもなくなるに違いないのです。
どうでしょうか、私たちが毒を持つことに賛成していただけないでしょう。


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        毒蛇会議

  
                           真善美
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《議長(キングコブラ)》

「それではただいまから定例の会議を開きます。
 本日の議題は、シマヘビ君とアカマタ君から共同提出された、 
 『私たちも毒を持って毒蛇になりたい』
という要求に対して、我われ毒蛇連盟がこれをどう扱うかです。
 つまり要求どおりに毒を持つことを許可して、我われの仲間に入れるか、それとも、それを許可しないのかです。
 それでは討論を始める前に、まず、なぜこのような要請をするに至ったかを、シマヘビ君から述べてもらいます」

《シマヘビ》

「先輩毒蛇の皆さん、このような機会を与えてくださったことを感謝いたします。
 さて、私たちは長年、無毒蛇をやってきました。
 その間いろんなことがありました。
 辛いこと悲しいこと、でもなんとか耐えてきました。
 だが、ついに、ついにその堪忍袋の緒が切れました。
 人間の横暴な振る舞いに対してです。 
 たいしたこともないのに偉そうに。
 なぜ、私たち無毒蛇はこんなひどい眼に会うのでしょう。 
 いったい私たちは何か悪いことをしたのでしょうか。
 何も好き好んで人間の住むところに迷い込んだりしたのではないのですが、人間に見つかるとたいていひどい眼に会います。 追い立てられたり、物をぶっつけられたり、棒に引っ掛けられて放り投げられたり。
 でも、そのくらいならまだ良いのです。
 人間によっては、叩き殺されたり、八つ裂きにされたり、生きたまま皮をはがされて食べられたり、車のタイヤにひかれたりと、あっちこっちで残酷な殺され方をしているのです。
 ごく稀には、やさしく捕まえられては、袋に入れられるときもあったりして、これで助かったのかと安心していたりすると、とんでもない、ゴミ焼却所送りなのです。
 生きたまま焼き殺されるのです。
 なんと云うかわいそうな生涯なのでしょうか。
 それに比べたら、紛れ込んだ小鳥たちはどうでしょう。
 決して追い立てられることはありません。
 もし怪我でもして弱っていそうなら、やさしく可愛い女の子の手で介護され、十分な食べ物を与えられ、体力が回復するまで大事にされるのです。 
 この違いはいったいどこから来るのでしょうか。
 こんなとき、私たちはいつも思うのです。こんな扱いをする人間に仕返しが出来たらなと。
 いや、決して、人間たちに復讐してやりたいなどと、大それたことを望んでいるのではありません。
 手も足ものない我われが、所詮、人間に立ち向かっても適いませんから。 でも、どうせ捕まえられて殺される運命にあったとしても、そのときに、毒を持っている皆さんと同じように、人間たちに、その毒の恐怖を少しは味合わせてやりたいのです。 
 人間は、俺たちは何でも出来るんだ、俺たちはどんな生き物よりも賢くて偉いんだと言わんばかりに俺たちを見下し我が物顔に振舞っている。
 今のままでは傲慢な人間たちはやりたい放題です。
 私たちが毒を持っていないということで、安心しているのでしょう。
 いや、わたしたちを舐めきっているのでしょうね。
 そこでもし私たちが毒を持っていたら、人間は警戒するでしょうから、もう、そうやすやすと捕まえられなくなるだけでなく、安易に私たちに近づくこともなくなるでしょう。
 そうなれば私たちは、以前のように無残な殺され方をすることもなくなるに違いないのです。
どうでしょうか、私たちが毒を持つことに賛成していただけないでしょう。
 そしてぜひ、その製造方法を教えてほしいのです」
《議長》

「共同提出者のアカマタ君からは、何か?」
《アカマタ》

「シマヘビ君が大体言ってくれたので、他に付け加えることはないのですが、あえて言うなら、私はよく人間の子供たちに苛められたりからかわられたりするのですが、もしわたしが毒をもては、もう、あいつらは私らに近づかなくなるどころか、毒蛇だ、危険だ、ということで私らを避けるようになるだろうね」
《オブザーバー席から》

「それは、逆だよ。
 避けるどころか、かえって眼の敵にされて、追い立てられ、捕まえられ、殺されるだけだよ」 

「そうだ、そうだ」

「劣等感丸出しだよ」

「そうだ、そうだ」

「人間と張り合ってどうするんだよ」

「そうだ、そうだ」

《議長》

「アカマタ君、続けて」
《アカマタ》

「、、、、それに、もし私らが毒を持てば、餌を捕まえるときに、もっと楽になるんではないかと思いまして。
 ですから、ぜひ、私たちが毒を持つことに賛成していただきたいのです。
 私らは小賢しい人間どもに苦痛を味わわせてやれる皆さんがとてもうらやましいです。
 だから皆さんのように早く毒蛇になりたいのです」

《議長》

「よくわかりました。
 それでは早速討論に入ります。
 意見のある方は、、、、はい、ブラックマンバ君」
《ブラックマンバ》

「あんたたちの言うことは、判らんこともないのですが、でも毒を持ったからといって何かいいことがあるかなあ、、、、わしにはこれといってないような気がするがな。
 そもそもわしらはな、いくら毒を持っているかといっても、人間に逆らおうとか、人間と戦おうとかという気はさらさらないんだよ。
 まったく勝ち目はないんだからな。 
 無駄な労力じゃよ。
 だから人間に遭ったら、わしらはとにかく逃げることにしているんだよ。
 まあ、それでも捕まえようとするなら、噛み付いてやらんこともないけどな。でも、そんなことは滅多にない。
 もともとわしらは争いごとが好きじゃない。
 そんなことしなくたって普通に生きて居れは自然に生きられるのだからな。
餌をとるときだって、毒はあまり使ったことはないなあ。
 だから賛成か、反対かと聞かれてもな、、、、」

《議長》

「他には、意見のあるものは、首を上げて舌を出してください。
 はい、デスアダー君。
 君は猛毒でしかも攻撃的といわれていますが」
《デスアダー》

「そういう評判のようですが。
 でも、わしらだって、こっちから人間を攻撃したことはない。
 するとすれば、それはあくまでも、追い詰められて危険が迫ったときで、近頃ほとんどない。
だから、毒を持てばきっと良いことがあると思うのは思い違いじゃないのかな」
《オブザーバー席から》

「そうだよ、かえって、ひどい眼に会うだけだよ」

「そうだ、そうだ」

《議長》

「オブザーバー席のアオダイショウ君、意見があるならどうぞ」

《アオダイショウ》

「シマヘビ君の、近所に住んでいる、ものなんですがね。
 どうも、彼らの考えていることが、判らん。
 ただでさえ、わしら蛇は、人間に、好かれていないのに、もし、彼らが毒を持てば、人間にとって、蛇というものは、全部、危険だということに、なって、見つけ次第、捕まえて、殺してしまえと、いうことになって、わしらは、ますます住みづらく、なるじゃないか」
《シマヘビ》

「そのノラリクラリしたしゃべり方、何とかならないのかよ。
 聞いてるだけでイライラして来る」
《アオダイショウ》

「そもそも、彼らは、せっかちで、おっちょこちょいで、何も、考えないで、行動するから、そういう眼に、会うんだよ。
突然、人間の目の前に、現れるから、人間のほうも、びっくりして、邪魔者扱いするんだよ。 遠慮っていうものを、知らないんだよ。
 とにかく、わしらは、ゆっくり行動して、出来るだけ人間を驚かさせないようにしている。
 道路を横ぎる時だって、彼らは、周りを見ないで、横ぎるから、自動車に轢かれてしまうんだよ。 それに比べると、わしらは、じっくり時間をかけて、様子を見て、それから横ぎる。 
 だから、車に轢かれて、無残な姿をさらけだす、なんてことは、滅多にないんだよ。
 結論として、あえて言わせてもらうなら、彼らが、人間にひどい眼に、会わされていると思っているのは、とんだ勘違いで、それらは、みんな、彼らのせっかちな、性格が招いた、災いなんですよ。 彼らが、毒を持ったからといって、彼らは、災難から、逃れることは、出来ないんだよ。 わしらのようにのんびりと、人間と、事を荒立てないで、生きて居れは、何も問題はないんだよ」 

《オブザーバー席から》

「毒を持ったからって何の得にもならないよ」

「そうだ、そうだ」

《議長》

「他には、はい、ジムグリ君」
《ジムグリ》

「なんか、シマヘビ君たちはムキになっている感じがする。
 ひどい目に会っていると言うけど、そんなにたくさんは殺されてはいないよ。 
 それよりも、傷ついた鳥みたいに大事にされたいというか、もっと人間に気にかけてもらいたいみたいでよ」

《シマヘビ》

「バカを言うなよ。
 臆病もんとは違うよ」
《議長》

「はい、それではマムシ君」
《マムシ》

「確かに我われは人間から敵視されている。
 だから我われも人間には近づかないようにしている。
昔はどうだったかは知らないが、とにかく今は、人間から遠く離れたところで何とか生きている。
見つかるとすぐ殺されるからな。
 だからといって我われは人間と争おうとか、復讐しようという気は少しもない。
 人間のほうも、我われが危険だからといって、我われを絶滅させようという気はなさそうだし、むしろ我われを利用しているみたいで、今のところは人間とはうまくいっている。 そもそも人間というものは、我われのことが気持ち悪いと思っているし、それが毒を持っているとなれば、敵視するのも当然だと思うよ。
 だから我われだってなるべく人間の眼に触れないところで生きているんだよ。
 それでもエサには不自由しないから。
 毒があればあったで、それなりに生きているって感じかな。
 わしは思うんだけど、シマヘビ君たちは、ちょっとわがままじゃないのかな。エサの豊富な人間の近くに住んでいて、それでいて、人間に邪魔されないで、あわよくば人間から侮られないで生きて居たいなんて、贅沢だよ。もし、我われのように毒を持ったら、人間から敵視されるのは確実で、人間の近くには住めなくなると思うんだけどな。
 この辺に関しては、毒を持っているのに、毒を持っていないような顔をして人間の近くに住み続けているヤマカガシ君に聞いて見たらどうだろう」
《議長》

「はい、それではオブザーバー席のヤマカガシ君、どうぞ」

《ヤマカガシ》

「別に隠しているわけじゃないけどね。
というより、私たちだって自分が毒を持っていることを知らなかったんだから。 にしろ今まで使ったこともなければ、ほかの誰かが使ったというのも聞いたことがないからね。
 まあ、これからも使うことはないと思うよ。
 はっきりいって私たちだって、人間に追い立てられ、捕まえられ、殺され、車にひき殺されているんだけど、でも、人間に仕返ししようなんて、これぽっちも思わない。
 それは仕方がないことだと思っている。
 だって、人間近くに住んでいるんだからね。
 なるべく見つからないように生きているつもりなんだけど、やっぱりどうしても、行き会うもんな、そのときは仕方がないよ。
 捕まらないように逃げるしかないよ。 それでも今まで生きてこられたんだから。
 毒を持っているとか持っていないとかは関係ないんゃないのかな。 
 だから私たちとしては、シマヘビ君たちが毒を持つことに賛成でもないし反対でもないということかな」

《議長》

「勢いよく首を上げ舌を出しているガラガラヘビ君、どうぞ」

《ガラガラヘビ》

「みんなの話を聞いているといらいらしてくる。
 なんだよ、隠れるとか、逃げるとか、見つからないようにするとか、毒を持ってない振りをするだとか、情けない。
 人間なんて恐れることはないんだよ。
 オレには戦うよ、俺たちに下手に手を出そうものなら、痛い目にあうぞって威嚇するよ。
尻尾を鳴らしてな。
 そうするとたいていの人間は恐れをなして逃げていくけどな。
それでいいんだよ。持っている能力を生かして戦えばいいんだよ。
 負けるとか勝てるとか考える必要はないんだよ。もし、それで殺されたなら、それはそれでいいじゃないか。
 俺らは誇り高い蛇なんだから。
 でもさ、正直言って、人間とは出会いたくないよな。
 奴らは俺らを見つけると確実に殺すからな。
 だから、なるべく人間の目が届かないようなところで活動してるけどな。
 それでももし見つかれば、まあプライド上ちょっと威嚇はしてみるけど、でも、ほんとは、あっ、失敗したなと思いながら、それとなくしらばっくれて逃げたい気持ちになっているんだよな。
 ということで、まあ、俺らとしては、シマヘビ君たちが毒を持つことに賛成するね。
 毒を持てば持ったで何とかなるもんだよ。
 つまり新しい生き方が出来るってことかな」

《議長》

「ずっと関心なさそうにみんなに背を向けているハブ君、君たちは毒蛇の中でも特別に攻撃的で、人間に最も恐れられていると聞いているが、何か言いたいことは」
《ハプ》

「ああぁ、かったるくて、ガラガラ君も最初は勇ましかったんだけど、最後のほうになると女々しさ丸出しで、ほんとに情けないよ。
 オイラには判らん。
何でオイラたちがそんなに人間に気を使って生きなければならないのか。
 人間よりもずっと昔からこの地球に行きいてるオイラたちがだよ。
オイラたちは人間なんて全然気にしないね。
 生きたいように生きるよ。
 逃げもしなければ隠れもしない。
 道であろうが畑であろうが家の中であろうが、その必要を感じたらどこへでもいく、もしそこで人間と出会えば、後は衝突するしかない。
 結果がどうなろうと関係ない。
 人間が死のうがオイラたちが死のうが、そのときはそのときだ。
 とにかくそうやってオイラたちは今まで生きてきたんだから。 人間からどんなに嫌われようがかまわない。
 人間がオイラたちを滅ぼそうとしようが、ちっとも恐れない。
 なんか昔、人間たちは、オイラたちを滅ぼそうとして、それをマングースに頼んだみたいだったけど、オイラたちは決して滅亡しなかった。
 そんなもんだよ。
 おそらくオイラたちは、今まで通りやっていれはそれで良いんだよ。
そうすればオイラたちはずっと行き続けることが出来るはずだから。
 それはオイラたちが毒を持っているからではない、生まれついたように生きているからなんだ。
もう、シマヘビことなんかどうでもいい、小さなことだ。
 持ちたければ持てばいいし、勝手にさせたら」

《議長》

「いつもあまり発言しない美しいサンゴヘビ君は、このことに関してどう思いますか」

《サンゴヘビ》

「みんな立場によってそれぞれ違うんだなあとづくづく思いました。
 持っている毒を積極的に使っているものや、私たちのようにほとんど使わないもの。
 もっとも私たちはロがあまりにも小さすぎて獲物を噛むことができないっていうこともありますけどね。
 それに強い毒を持っているからといって、必ずしも強暴だとは限らないし、毒をもっていなくても攻撃的な、アカマタ君のような蛇が居るようにね。いったいいつ頃からこういうことになっているんだろうかね。
 つまり、みんな蛇それぞれだってことが。
 私にはよく判らない。判らないといえば、シマヘビ君たちは毒の製造方法を教えてほしいといっているけど、誰か毒の作りかたを知っているものはいるのかな。
 私にはさっぱり判りませんが」
《議長》

「ということだが、誰か知っているものはいますか」
《議場の方々から発言が出る》

「そんなの知らないよ。
考えたことなんてないよ。
生まれたときからそういうことになっているんだよ」

《議長》

「どうやら誰も知らないみたいだね。
 私だって知らないからね。
 ということは、この議題はこれ以上話し合っても無駄だってことかな。
 誰も毒の作りかたを知らないんじゃ、みんなが毒を持つことに賛成しても、シマヘビ君たちは毒を持つことが出来ないんだからね。
 どうしますか、シマヘビ君たち、、、、」
《シマヘビ》

「毒を作り出すコツみたいなものはないんですか。
 たとえば、硬いものを噛んでアゴを鍛えるとか、エサは決まったものだけ食べるとか、人間に怒りを持ち続けるとか、、、、とにかく私たちは人間の横暴さを許せないのです。
 抵抗しても勝ち目がないことは判っています。
でも何も出来ないで殺されていくのには我慢がならないのです。
 せめて人間がわたしたちを捕まえるときに、用心して掛からないと命取りになるかもしれないという恐怖を味わわせてやりたいのです。
 そのためにも、ぜひ、、、、」
《議長》

「どうですか、だれか毒の作り方を知っているものは居ませんか、本当に居ませんか」
《オブザーバー席から》
「、、、、、、、、、、」
《議長》

「そういうことだ、シマヘビ君とアカマタ君。
 判ってもらえたかな。
 それでは次の議題に入ります。 
 これは人間から提案されたもので、それに対してわれわれがどういう結論を出すかが、これから話合う内容となります。
 それではその提案内容を副議長のアマガサヘビ君から紹介していただきます」
《副議長》

「人間からの提案はこういう内容です。
では、まずこのテープを聴いてください。
    ===============
 

 かつて私たち人間は、人間に危害を加える毒を持ってる生き物は何の役にもたたないということで、積極的に捕殺し駆逐するようにしてきました。
 だが、何の役にもたたないように見えていたどんな生き物でも、地球規模での生態系下に於いては、何らかの役割を果たしているということが判ってきた昨今、私たち人間はどんな生き物でもむやみに殺してはいけないというように考えるようになってきました。
 それどころか、数が少なくなってきている生き物を積極的に保護し増やしていこうという考えに変ってきました。
 特に絶滅しかかっている生き物は国際的な法律まで制定して守ろうとしています。
 でもそういう考えに対して反対する人もいます。
 主にその生き物から危害を加えられる人たちなのですが、彼らも生きていくためには必死ですから、 そんな生き物を守っていられないということになるのでしょうが。
 特に毒を持つ生き物、たとえば毒蛇などに対してはその保護のための協力を得られることは大変難しいです。
 彼らはみんな
『噛まれでもしたら、下手をすると死ぬかもしれないというあんな危険な毒蛇を、なぜ我われが保護してやらなければいけないのか』と思っているからです。
 現在、ペルシャクサリヘビ、カスピコブラ、ニューメキシコガラガラヘビが、絶滅の危機にさらされています。
 わたしたちは何とか守ってやりたいのです。
 この地球の生態系のためにも。
 でも現実は、その対象が毒蛇だということでなかなか難しいことは前に述べたとおりです。
 そこで、私たち人間はこの難問を解決するために次のような考えに至りました。
 人間が毒蛇を恐れるのは毒を持っているからであって、もしその毒蛇が毒を使わないと言ったら、つまり人間に対して毒を行使しないといったら、人間はもう毒蛇を恐れることはなくなり、毒蛇を見つけても、追い払ったり、捕まえて殺したりはしなくなるだろうということです。
 そうすれば先程のような毒蛇たちも絶滅の危機からきっと免れることが出来るはずです。
ですから私たち人間は、
「もしあなたたち毒蛇が今後絶対に毒攻撃を行使しないと宣言してくれたら、私たち人間も、あなたたちをむやみに捕獲して殺したりは絶対にしないことを約束する」
ということをここに提案します。

 =======================

 以上ですが、これを聞いてなんのことかよく判らない者のために判りやすく言いますと、まあ簡単に言って、われわれ毒蛇が毒の使用をやめると宣言しないか、ということなんですが、つまり、やむをえない場合を除いて、毒を使った先制攻撃を絶対にしないと宣言すれば、人間側も、我われを見つけ次第、我われを決して捕まえて殺さないということです。
 というのも、人間たちがただ危険な毒蛇ということだけで我われを殺している間に、毒蛇の中にはその数がだんだん減らしていき、絶滅の危機に瀕している種類があるということで、人間もどういう風の吹きまわしか、そのことをたいへん心配して、もう殺すことはやめようと心を改めたようです。でも、そのためには、我われが毒を使った攻撃を、人間には絶対にしないということが最低条件のようです」

《議長》

「それではさっそくこの提案に対して討論を始めます。意見のある方は、、、、はい、ブラウンスネーク君」

《ブラウンスネーク》

「それは人間に対してだけ、つまり我われが毒を使用してはならないのは人間だけということで、ほかの生き物には使っても良いということなのかな」
《議長》

「たぶん、そうだと思います」
《ブラウンスネーク》

「ふう、それほど悪い提案でもなさそうだな」
《セイブダイヤガラガラヘビ》

「はい、議長」
《議長》

「どうぞ、ガラガラヘビ君」

《セイブダイヤガラガラヘビ》

「正確にはセイブダイヤガラガラヘビといいますが、まあ、どっちでもいいですけどね。本当にニューメキシコガラガラヘビって絶滅しかかっているんですかね」

《議長》

「どうやらそのようです」

《セイブダイヤガラガラヘビ》

「近くに住んでいるけどちっとも知らなかったな」

《議長》

「はい、アマガサヘビ君」

《アマガサヘビ》
「絶滅しかかっている蛇たちには悪いけど、人間に毒を使わないって宣言をしたからといって、我われに何かいいことがあるのかな。
 そもそも我われは人間に会ったからといって攻撃をしたことはないし、人間のほうも我われを攻撃したことはないし、そうやって今まで人間とはうまくやって生きてきたんだからな。
 私たちとしては賛成しないね」
《議長》

「はい、ドクハキコブラ君」

《ドクハキコブラ》

「せっかく持っている毒を使わないなんてばかげているよ。
 みんなは人間と戦えが勝ち目がないなんていってるけど、戦い方が下手なんだよ。というより何も勝つ必要はないんだよ。
つまり負けなきゃいいんだよ。
 人間が近寄ってきたら、まず離れたところから毒を吐いてけん制するのさ、それでも近寄って来たら逃げるのさ、そして、もし追いつかれでもしたら最後は死んだ振りさ、そうすりゃあ人間だって戦う気なくなるさ。
 とにかく我われは毒を吐くことをやめる気はない、それは我われの生きがいだ、特技だからな。あの吐くときの緊張感と快感は忘れられないよ。
 だからその宣言には反対」

《議長》

「それでは、はい、マムシ君」

《マムシ》

「俺たちが毒を使わないと宣言したら、人間たちは本当に俺たちを攻撃しなくなるのかな。
 もし本当にそうなら、シマヘビ君たちのように獲物の豊富な人間の近くに住んで、少しは安心して楽に生きられるかな。
 そうすれば、たとえ人間に食用にされようとも、結局は保護され大事にされるんだから、あっちこっちに昔のように仲間もいっぱい増えるだろうから、楽しくなるかもね。
 俺た ちはもともとは勝ち負けにはこだわらない、出来るなら争いごとは避けたい、それに俺たちの肉体が人間たちの健康に役立つなら多少の捕殺も許せる。
 でも、俺たちは見た目が悪いから、人間が嫌がらないかな、道で出会ったとき怖がって石をぶっつけたりしないかな。
 そうすると仲間のうちには思い余って毒で反撃したりするものも出てきたりして。
 そうなると戦闘復活だ。
 俺たちは宣言採択に賛成だが、そうならないためにも、もう少し人間たちの決意って言うか真意を知りたい」
《議長》

「はい、インドコブラ君」

《インドコブラ》

「最初に言うが俺たちは採決には棄権する。
 というもの、そんなことはうまく行く訳はないと思っているからさ。
 そもそも俺たちはは人間と戦うとか、勝ち負けとかには興味ないんだ。
多少殺したり殺されたりはあるかもしれないが、今までうまくやって来たんだから、このままで良いじゃないですか。
 正直言うとわれわれは人間よりも、そこに涼しい顔をして座っているキングコブラ君のほうが怖いよ。
 なにしろ我われの仲間を飲み込んだっていう話も聞いたことがあるからね。
 とにかく我われはそんな宣言には関心ない、だから棄権する」

《議長》

「そういうこともたまにはあるでしょうが、、、、」

《議場から》

「たまにじゃない、しょっちゅうだよ」

《議長》

「おほん、それでは他に、、、、はい、イイジマウミヘビ君」
《イイジマウミヘビ》

「私たちは、それで絶滅しかかっている者たちが助かるなら賛成です」
《議長》

「はい、エラブウミヘビ君」

《エラブウミヘビ》

「我われは反対だ。
 我われには毒の使い分けなんか、そんな器用な真似は出来ないよ」

《議長》

「どうですか、ハブ君、今度も関心ありませんか」
《ハブ》

「ないこともないけどさ。
 せっかく意見を求められたんだから言うけどさ。
 みんな甘いな。
 特にマムシ君は。
 今もそうだけど、その昔、人間にどんなにひどい眼に会ったか忘れているみたいだね。

 楽にいきたいとか、勢力を広げたいとか、でも、人間が怖いな、などと考えているから、そんな煮え切らない態度になるんだよ。
 姑息だよ。
 情けない。
 はっきり言おう、オイラたちはそんな宣言には断固反対する。
 うまくいくかどうかが心配だからではない。
それ以前の問題だ。
うまくい くわけがない。
 我われヘビと、人間とはあまりにも違いすぎる。
 みんなはどうもそのことが判っていないようだな、人間は心の底ではどんなに我われを嫌っているか。
 まあ、稀には我われのことが好きな変わり者もいるようだが。
 だが、ほとんどは、蛇なんかこの世から消えてなくなれば良いと思っている。
 特に毒蛇なんかはな。
 だからその中でも特に攻撃的で、しかも毒の強いオイラたちががどんなに嫌われているか。
 でもしょうがないんだよ。
 そのように生まれついてきているんだから。
それはオイラたちの性分なんだから、人間だけに毒を使わないなんて出来ないんだよ。
 というよりもオイラたちはこの性格を変えるつもりはない。
 それで人間から忌み嫌われて徹底的に捕殺されても仕方がないと思っている。
  生きたいように生きてそれで滅びるなら結構じゃないか。
 滅びるものはいずれ滅びるのさ、それはオイラたちが決めたことじゃない。
 オイラたちが滅びたって何も変らないさ。
 他にもまだたくさん蛇がいるじゃないか。
 また新しい毒蛇が生まれてくるよ。
 シマヘビ君たちのように自分から進んで毒蛇になりたいというものもいるみたいだしね。
 とにかく我われは断固反対だ。
 というよりも、たとえそんな宣言が採択されても我われは従うつもりはないけどね。
 オイラたちはどんなに嫌われようが、どんなに見下されようが、どんなに味方が少なくなろうが、いや、そのほうがかえって、もっともっと強い毒蛇になってやろうというファイトが無性に沸いてくるけどな。
 だから毛頭、生き方を変えるつもりはない。
 どんどん牙を磨いて我が道を行くだ。
 最後にこれだけはみんなに言っておきたい。
 人間のほとんどは俺たちを死ぬほど嫌っている、だから奴らを絶対に信じてはならない」
《議長》

「他にはないですか」

《議場から》

「、、、、、、、、、、、」

《議長》

「では、最後に、われわれ毒蛇よりも古くからこの地球に住んで色んなことを見聞きして来ているニシキヘビさんに意見を聞きたいと思います。
 オブザーバー席のニシキヘビさん、あなたはこの提案をどのように考えていますか」

《ニシキヘビ》

「おほん、私たちは、人間たちがこの世に出てくる前から、いや毒蛇の皆さんが出てくる前からずっとこの地球上で起こる出来事を見てきました。
 その間たくさんの生き物が出てきて、変化していき、あるものは滅びていき、あるものは生き残ってきました。
 その結果判ったことは、生き物はさまざまだということです。
 みんな違います。
 食べ物から性格から行動まで、何から何まで違います。
 それでも生きていけるのです。
 ヘビも同じです。
 性格のきついものから大人しいもの、毒を持つものから毒を持たないものまで、とにかくさまざまです。
 みんなそれぞれに生きているんです。 ハブ君の言うようにみんな生まれ付いた性分を背負って生きているんです。
 それで良いんです。それでうまく行くんです。
 これまで地球上の生き物はみんなそうやって生きてきたんですから。 そもそも毒が良いとか悪いとかは人間が決めたことなのです。
 歴史の浅い人間の決めたことなど当てにはなりませんからね。
 人間は自分たちに都合の悪いもの、役に立たないものを毒を決め付けて、差別して排除しようとするのは、いかに人間が知恵のない生き物であることを証拠付けるものです。
 毒蛇が毒を持つようになったのは、たまたまなのです。
 偶然何です。
 ことの成り行きなのです。
 これは皆がそれぞれに生きるためにがんばった結果なのです。
 それを良いとか悪いとか言うのは知恵のない人間だけです。
 どんな生き物だって、毒みたいなものはみんな持っているのです。
 それが他の生き物には毒になったりならなかったり、そしてそれが他よりは強く作用したり作用しなかったりするだけなのです。
 人間の消化液だって、小さな生き物にとっては毒みたいなものですよ。 ただ、ヘビの毒は効率的にしかもに強力に作用するに過ぎないのです。
 別の言い方をするなら、毒を持つようになったのは、そうなる必要があったからなったのであり、それはまた、さまざまな生き物が生きられるほど自然は豊かでおおらかあるという証拠でもあるのです。
 どういうわけか、この地球上で繁栄している人間と似た体液を持つものは歓迎され、人間に害を与える体液を持つものは有害動物として排斥されています。
 でも暖かかったり寒かったり、大きかったり小さかったり、大人しかったり強暴だったりがあるように、正反対のものがあることはちっとも可笑しいことではないのです。
 たまたま人間側に付く生き物が多くて、毒側につく生き物が少なかったに過ぎないのです。
 それによって他の多数のものと変っているために注目され、しかも、毒を持つものは、どういう訳か、さらにその能力を努力してどんどん発達させたために、ますます特別視されるようになり、やがては差別され危険視されるようになったにすぎないのです。
 それでも我われは、人間以外の他のすべての生き物を含めた我われは、今までずっと生まれついた性分にしたがって生きてきて、なんとかうまくやってきました。
 これからもきっとうまく行くでしょう。
 知恵は肉体に宿るという言い伝えがあります。
 でも人間は頭に頼りすぎてそんなことを忘れてしまったようです。
 だからそんな知恵のない人間のいうことなど聞いて、もう小細工をする必要はないのです。
 皆さんはどのような結論を出すかはわかりませんが、最後にこれだけは言っておきます。
 人間のいうことを当てにしてはいけません。
 なぜならば人間というのは、この地球を良くしようとすればするほど、かえってますます悪くしてしまうという愚かな生き物なのです。
 はっきり言って、これからも彼らは地球からは歓迎されない生き物なのです。 他のすべての生き物は人間がこの地球から居なくなればいいなと思ってるはずです。
 おそらくそうなることでしょう。
 というのも、私たちヘビは、何度も環境の激変も乗り越えながら、人間よりも遥か昔からこの地球上に住んできましたから、これからどんな変化が起ころうが、私たちのほうが生き残って人間よりも長く生き続けることは間違いのないことだからです。
 わたしは皆さんが知恵に満ちた判断を下されることを心から願っております」

《議場から》

「、、、、、、、、、、」

《議長》

「それでは、採決します。
 われわれ毒蛇連盟は、人間に対して絶対に毒を使った攻撃はしないと宣言することに賛成のものは、、、、、
 ほとんどなし、、、、
 判りました。
 それではこれで本日の会議を終了します。
 閉会」